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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)555号 判決 1950年6月05日

被告人

鈴木茂敏

外一名

主文

原判決中被告人鈴木茂敏に関する部分を破棄する。

同被告人に対する事件を名古屋地方裁判所に差し戻す。

被告人若山悦道の控訴を棄却する。

理由

弁護人龜井正男の控訴趣意前段について。

本件記録を精査するに被告人鈴木茂敏は昭和二十四年三月二十八日附起訴状を以て原判決判示第一の(一)(二)の臨時物資需給調整法違反事実について同年四月二十六日附起訴状を以て同上第一の(五)の事実について同年五月六日附起訴状を以て同上第一の(三)(四)の事実について同年七月九日附起訴状を以て同上第二の詐欺の事実について同年七月九日附起訴状を以て同上第二の詐欺の事実について夫々起訴されたこと、同被告人は同年三月二十九日弁護士白井俊介を同月三十日弁護士来多虎栄を同被告人に対する臨時物資需給調整法違反被告事件について、同年七月十九日右白井俊介を同被告人に対する詐欺被告事件について、同年八月十五日弁護人近藤亮太を同年九月二十日同寺尾元実を夫々同被告人に対する刑事被告事件についてその弁護人を選任しその都度その旨の届出があつたこと、その他同被告人の事件について私選又は国選弁護人が存しなかつたこと及び同被告人に関しては単に期日の延期がなされた場合を除いて同年四月二十日白井弁護人及び来多弁護人出席、同年五月二十三日同年六月六日及び同年八月十二日白井弁護人出席同年九月七日以降同年十二月二十一日の結審迄七囘白井弁護人及び近藤弁護人出席(但同年九月二十七日には寺尾弁護人も出席)の下に夫々公判が開かれたことが明かである。

而して右近藤弁護人及び寺尾弁護人の選任された当時は既に被告人鈴木茂敏に関して全事実が起訴されており且つその各弁護届には同被告人の刑事被告事件と記載し特にある事実を除外してないので、その全起訴事実の弁護人として選任されたものと解され従つて近藤弁護人の出席した昭和二十四年九月七日以降の各公判期日は適法に弁護人が附せられたことになるがその以前の同二十四年五月二十三日及同年六月六日の兩公判期日においては同年四月二十六日及び同年五月六日附起訴状の事実即ち原判決判示第一の(三)乃至(五)の事実について弁護人を欠如していたと認めざるを得ない。何者右兩公判期日に出席したのは白井弁護人であるところ既に説示したように同弁護人は被告人鈴木茂敏から同年三月二十九日同被告人の臨時物資需給調整法違反被告事件についてその弁護人に選任されているのであるがその当時は同月二十八日附起訴状の事実即ち原判決判示第一の(一)(二)の臨時物資需給調整法違反事実のみが起訴されていた丈であるからその選任が該事実を包含することは勿論であるが、その後の同年四月二十六日附及び同年五月六日附各起訴状の事実即ち原判決判示第一の(三)乃至(五)の臨時物資需給調整法違反事実に迄及ぶとは解せられず且白井弁護人が右の事実について私選又は国選の弁護人となつた形跡は認められないから前示同年五月二十三日と同年六月六日の両公判期日に同弁護人は同年三月二十八日附起訴状の事実についてのみ弁護権があつたにすぎないというべく同年四月二十六日附及び同年五月六日附起訴状の事実を内容とする事件に関しては弁護人なくして開廷されたものとなさざるを得ない。然るところ臨時物資需給調整法違反の罪にはその法定刑として十年以下の懲役が定められているので右の事件は所謂強制弁護事件であつて弁護人なくして開廷し得ないのであり、これに反してなされた公判手続は弁護権の不法な制限の下になされた場合と異なることなくその手続は無効なものというべく且つ右両公判廷においては前示二通の起訴状の朗読並びに原審が被告人鈴木茂敏に対する臨時物資需給調整法違反事実認定の証拠として採用した昭和二十三年三月十一日附検察事務官に対する藤井功の供述調書、愛知県知事作成の被告人鈴木茂敏に関する衣料品登録業者登録に関する件、原審証人松田正光及び同岩田真一の尋問を行うているのであつて、その他の各論旨を判断する迄もなく原審の処置は訴訟手続に関する法律に違背するものであつてその違背は判決に影響を及ぼすこと明かであるから原判決は刑事訴訟法第三百七十九条第三百九十七条に則つて被告人鈴木茂敏に関する限り破棄を免れず且つ右に説示したように前示二通の起訴状の朗読並びに証拠調の手続等も改めて履践の必要があつて直に当審において判決し得ない事情にあるので同法第四百条本文に従つて同被告人に関する事件はこれを原審名古屋地方裁判所に差し戻すべきものである。

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